お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「この水族館へ投資するにあたって、うちの会社から何点かオーダーを出させてもらったんだけど、執行役員たちが好き勝手注文つけるから、まとめるのが大変だったんだ」

そう言って彼は、かわいらしい魚たちを眺めながらも、当時の苦労を思い起こすようにため息をついた。

「大人用のナイトアクアリウムを作れとか、子ども用のタッチプールがほしいとか。相談役の孫のために危険生物コーナーも作ってくれとか。ただでさえビルの中で敷地が限られているっていうのに、副社長が展示予定のなかったマンボウまで加えたいと言い出して」

「いいじゃないですか、マンボウ! かわいいですし」

「繊細で、飼育がすごく難しいらしいんだ。特注の設備も必要だし。奥の専用水槽にいるよ」

柊一朗さんが私の手を引っ張って通路を進んでいく。

気がつけばふたりの指と指は、きゅっと強く絡んでいた。

青白いライトに照らされて微笑む彼が、いつもよりちょっぴり優しく、頼もしく見えて、不思議と穏やかな気持ちになっていく。
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