お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「……過去のことはもういいじゃないか」

「よくありませんよ! ちゃんと理解できないと、怖くて結婚なんて出来ません」

彼は確かに言っていた。『二年前のあの事件がきっかけだった』って。

でも、当の私は、柊一朗さんのことをまったく覚えていないのだ。

じっと見つめて答えを待っていると、彼はミネラルウォーターをゴクリとひと飲みして喉の奥へ流し込んだ。

とうとう話す気になったのか、ふう、と短く嘆息する。

「二年前――君は、思い出したくないかもしれないけれど」

ドクン、と鼓動が鳴った。不安に身を強張らせながら、彼と向き合う覚悟を決める。

「セクハラ事件のことですね」

私の言葉に、彼は小さく頷く。

正確に言うと、被害者は私ではない。セクハラされたのは、仲の良かった同期で、私は相談を受けたにすぎない。

彼女は小柄で、とてもかわいくて、けれどハッキリとものを言うのが苦手で、いつもどこか小動物のようにビクビクとしていたっけ。

その姿が、きっとこの事件の被疑者――日千興産の常務の目についたのだろう。そして、ターゲットにされた。
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