お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「当時、俺は関西支部の支部長を任されていた。月に何度か本社に足を運ぶ程度で、経営側の動きはまったくと言っていいほど把握していなかった。俺がその話を耳にしたのは、事態が深刻化したあとだった」

思い詰めた友人は自殺をほのめかすようになって、私は必死になって彼女を止めた。そのとき初めて、彼女がこんなにも精神的に追い詰められていたのだと知った。

いざ同じような境遇の被害者を探してみると、彼女だけではなく五人いて、決起した彼女たちは、訴えを起こすことを決めた。

「セクハラをした常務のバックには、財政会の大物がいて、彼を失脚させるわけにはいかなかった。当時の執行役員たちは彼を擁護すると決め、被害者たちを買収した。示談金と言えば聞こえはいいけれど、事件そのものがなかったことにされたのだから、口封じと言った方が正しいだろう」

泣いている彼女を思い出して、瞳がじんわりと滲んだ。

彼女は、お金がほしかったわけじゃなかったのに。

仕事も女性としてのプライドも失って、事件が闇に葬られるとともに自らも消息を絶ち、会社から、そして私たちの前から姿を消した。

「最後まで事実を主張し続けたのは――君だね。澪。友人のために最後まで戦おうとした。そもそも、被害者たちを一念発起させたのは君で、彼女たちの指導者的役割をしていた」

コクリ、と私は頷いた。
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