お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「君が彼女たちの指揮を執っていたのは、罪悪感からだったんだね。過去に被害を受けた女性たちをひとりひとり説得して回り、特に被害の酷かった五人を集めて訴訟を起こそうとした。もみ消されることをわかっていたから、あらかじめマスコミにも情報を提供した」

「結局、お金でもみ消されてしまいましたけどね」

正義が勝つなんて、甘い幻想だ。現実には、そんな綺麗ごと、通用しなかった。

テーブルに置いていた手にきゅっと力を込めて握る。

事件を隠蔽しようとした日千興産が許せなくて、会社を辞めたのは事実だ。けれど、見方を変えればなにも出来ずに逃げ出したとも言える。

「私には、なんの力もありませんでした……」

「それは違う」

柊一朗さんの手が私に重なり、冷えた指先を温かな熱で包み込んだ。

「圧力にも負けず、最後までたったひとりで正しいことを主張した、澪の強さを誇りに思う」

私の手を握る力をきゅっと強くして、彼はいつにも増して真剣な眼差しを私へ向ける。

「でも、私は自分の勤める会社を貶めました。柊一朗さんや幹部の人たちに恨まれても仕方がないと――」

「それは違う。君は正しかった。間違っていたのは俺たちの方だ」

険しい表情の彼――その瞳には、強い情熱が宿っていてハッとさせられる。
< 132 / 294 >

この作品をシェア

pagetop