お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「俺が言いたかったのは、そういうことじゃなくて――」

夜の十一時。薄暗い路地。

あたりに通行人がいないことをいいことに、彼は私の腰を引き寄せて、そっと腕の中に収めた。

「――誰にも媚びず、芯のブレない君が好きだ。きっと俺は、澪の心の強さに惹かれたんだ」

ニッと蠱惑的な笑みを浮かべた後、私の口の端に、チュッと軽く唇を当てる。

それから私のリアクションを探るように、甘い瞳をこちらに向けた。

「もっとそばにいたい。一日中、怒って笑って泣く君を見ていたい。同居の話、本気で考えてほしい」

「……で、でも……」

「俺じゃダメ?」

私の頬に手を滑らせて、逸らした目を無理やり前へ向ける。

すかさずもう片方の手で私の頬を捕まえて、これ以上、逃げられないようにした。

「ねぇ。俺を見て」

……だから、ズルいよ、そういう顔は。

普段はニコニコ笑っている彼に、本気の視線を投げかけられると、NOとは言えなくなってしまう。
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