お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「こちらこそ悪いが、今日の先約は俺なんだ。彼女の手を離してもらえるか?」

雉名さんがそう意地悪に言い放ったので、私はギョッと目を丸くする。

先約? なにそれ? そんなものしていない。

とはいえ、そもそも柊一朗さんとだって約束なんてしていないのに。

ふたりして、先約先約って、いったいどういうこと?

すると、次の瞬間、私の腕を掴む柊一朗さんの手に、ギリッと力がこもった。

慌てて見上げると、厳しく表情を引き締めた彼。相手を威圧するような、初めて見せる顔だった。

どうしてそんな顔をするの? 

柊一朗さん、怒ってるの?

「ほら。立花サン。どうするよ? どっちを選ぶ?」

突然振られた私は、「え」と間抜けな声を漏らす。どうするって、なに?

「いい加減、早く選ばないと、本当に失うぞ、強情女」

悪態をつかれて、やっと理解した。

ああ、もしかして、雉名さんがあえて挑発的な台詞を投げかけたのは、私に、柊一朗さんを選ばせるため……?

素直にならないと幸せを逃す、さっきそう言って雉名さんに叱られたばかりだった。
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