お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「……今日は、柊一さんと約束しているので」

私が柊一朗さんの腕に手を絡めると、雉名さんはフッと眼差しを緩めた。

「穂積の焦った顔を見たのは、今日が初めてだ。サンキュ、おもしろいもの見れた」

そう言い残して雉名さんは、あっさりと私たちへ背中を向け、駅の方へと立ち去ってしまった。

今のは、柊一朗さんへの意地悪だったのだろうか。それとも、私を困らせて遊んでいただけ?

冷静になったところで、柊一朗さんを見上げると、視線に気づいた彼は、未だ険しい表情で私を見下ろしていた。

「あの……柊一朗さん」

「……なに」

「怒ってます?」

おっかなびっくり顔色をうかがうと、彼はふう、と短く息を吐いてわずかに肩を揺らす。

「怒っては、ない」

「でも、不機嫌そう」

「……動揺してる。プロポーズした女性が、目の前で別の男とキスしていたから」

「し、してません! キス……なんて、そんな……アレは雉名さんがふざけて……」

とはいえ、確かにあそこまで顔と顔の距離を近くしているところを見られたら、角度によっては誤解されても仕方がない、と怯む。
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