お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「……泣かないで」

「泣いてないよ」

「でも……泣きそう」

これ以上、見るなとでもいうように、柊一朗さんが私の肩口に顔を埋める。

こんな弱り切った彼、初めて見た。放っておくことも出来なくて、大きな背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。

「どうしたんですか。柊一朗さんらしくない……。いつもは私がどんなに冷たくあしらっても余裕じゃないですか」

「……余裕なんか、ない」

耳を疑うようなか細い声で、彼は私の腕に指を滑らせる。

「本当は、余裕なんて、これっぽっちもない。澪は、キスには答えてくれるくせに、言葉にはしてくれないじゃないか。俺のことを好きだとか、愛しているとか、絶対に口にしてくれない」

「柊一朗さん……」

彼がこんなにも疑心にかられていただなんて、知らなかった。

私を弄んでいるんじゃなかったの? 私の心を見透かして、手のひらの上で転がしているのだと思っていたのに。

翻弄していたのは、私なの?

彼の口からこんなにも弱々しい言葉がとび出すなんて。
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