お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
会議場を出て別室に移り、扉を閉めてふたりきりになったところで、俺は濡れた彼女にハンカチを手渡した。

しかし、彼女は受けとることもせず、じっと無表情で佇んでいる。

彼女にかけてやれる言葉なんて、ない。労いも。

俺は敵側の人間で、彼女をズタズタに切り裂いた連中のひとりなのだから。

「これ以上、君が主張を続けても、誰の得にもならない。もちろん、君自身にも」

だから俺は、これ以上、彼女が傷つくことのないように、あきらめろと助言する他なかった。

「意地を張らずに、金を受けとってすべてを忘れるんだ」

でないと、やつらはなにをするかわからない。本当に、彼女の身に危険が及ぶこともあるかもしれない。

俺の言葉に、彼女はギリっと悔しそうに奥歯をかみしめた。

初めて、憎しみを込めた目で俺を睨んで、そして――。

――パンッ。

乾いた音が室内に響き渡った。俺は頬を叩かれ、勢いのまま首を横へと向ける。

「あなたみたいな人がいるから、あの子は――!!」

それだけ叫んだあと、これ以上なにを言っても無駄と悟ったのか、ぐっと言葉を飲み込み部屋から飛び出していった。
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