お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「そろそろ父が、私にも経営を任せたいというので、そのご挨拶に」

「そうか。君はアレが歳をいってからの子どもだからねぇ。かわいくて仕方がないのだろう。存分に腕を振るうがいい。君の手腕次第で、いくらでも協力しよう」

手腕次第、というのが怖いところで、才がないと見限られたが最後、彼は冷酷なほどの素早さで手を引く。

それこそ、彼がここまで財を成した所以なのだろうが……。

「存分に振るわせていただきます」

自分がそこまで無能だとも思わない。恐れることはない、自分がやるべきことをやるだけでよいのだ。

「その豪胆な性格は、父親にそっくりだ。とすると、そろそろ『あの課題』をやる頃かね。それにしても、本当に面倒な風習だねぇ、そろそろ止めにしないのかい?」

腕を組んで唸る彼を前に、俺はニッコリと満面の笑みで答える。

「大切な機会ですから。外に目を向けることは」

グループ外の企業に赴き、就業の経験を積む。それが千堂家当主が代々こなしてきた社長になるための『課題』だった。

その裏には、権力に胡坐をかくな、見分を広めよ、という戒めが込められていて、一度は味方のない場所で這いつくばって働くからこそ、人の上に立つ力が身につくのだという家訓でもある。
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