お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
本来であれば、もっと早く、二十代前半にでも終わらせておくべきことだったのだが、体を壊しがちだった父が代替わりを急いだ関係で、機会を逃してしまった。

父からは、こんな古い慣習に従うことはないと言われたのだが、俺はせっかくだからやらせてくれと頭を下げた。

「わかった手配しておこう」

「それなのですが、ぜひ行ってみたい会社があるので口利きをお願いできますか?」

「ほう。どこの会社だ?」

「『新海エレクトロニクス株式会社』」

「新海グループの子会社かね。名前くらいは聞いたことがある。なぜそんな小さな会社に?」

「成長率、離職率でいえば、最優良の会社です。学ぶべきことはあるかと」

「その程度、探せば他にいくらでもあるだろう? わざわざその会社を選んだ理由は?」

「……かわいい女の子がいるんです」

ニッと笑っておどけると、タヌキ親父はあっはっはと豪胆に笑った。割とジョークの利く人で、ときにはその言葉の裏を察して口をつぼめてくれる。

「昔から良くも悪くもずる賢い君のことだ。心配はしておらんさ。いいだろう。口を利いてやろう」

「ありがとうございます」
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