お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
彼女がぽつぽつと語り出した。

デートで、どこに行きたいかと聞かれても、どこに行けば俺に喜んでもらえるのか、まったく想像がつかなかったこと。

水族館をも貸切にしてしまうようなお金持ちの男性と、どんな風に付き合っていけばいいのか、さっぱりわからなかったこと。

「だから柊一朗さんのいる世界を見てみたいんです」

彼女の決意に胸がぐっと熱くなって、途端に愛おしさが込み上げる。

俺が彼女に歩み寄ることは出来ても、その逆は難しい。まったく知らない世界を想像しろっていう方が、無理なのだ。

一見すれば、煌びやかな世界。けれど一歩足を踏み入れれば、辟易するほど血生臭く、金と権力ですべてが決まる。

そこに彼女を引き入れようとしているのは俺自身だ。俺と結婚するということは、そういうことだから。

「……わかった。恋人として同伴してくれ」

ここまで決意を固めた彼女をあしらうのは、もはや失礼だろう。

俺が出来ることと言えば、当日、彼女に寄り添い守ってやることくらいだ。

どうか澪が、俺の隣に立ち続けることを選択してくれますように。

祈るような気持ちで、彼女の額に口づけた。
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