お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
二十五階へ到着しエレベーターを降りると、すでにその場に柊一朗さんの姿はなかった。

会場に戻ったのかもしれない。ホールをぐるりと囲むように配置された廊下を進み、入口へと急ぐ。

着物の裾がもどかしい。本当は柊一朗さんのもとに走っていきたいくらいなのに。

会場からはマイクを通した誰かのスピーチが響いてくる。別の会社の重役が挨拶をしているのだろう。

そそくさと歩みを進めていると、途中、グレーのスーツを着た背の高い男性とすれ違い、肩が触れてしまった。

私は「すみません」と謝り、目線を上げるけれど、その男性の顔を目にした瞬間、蒼白になった。

――常務!

目の前にいたのは、あのセクハラ事件の当事者であり、私の同期を追い詰めたその人。

咄嗟に私は、顔を伏せ、バレないようにうつむいた。

ドクドクと鼓動が高鳴る。一刻も早くその場を離れようと、私は歩みを進めるけれど。

「おい、お前」

背中から声をかけられて、サッと全身の血の気が引いた。

気づかれた……!?
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