お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「え? なに?」

「……だって、お母さまったら、柊一朗さんは甘えるのが苦手だとか、わがままを言わないしっかりものだとか、さんざん言ってたのに、実際は好き勝手し放題じゃない! これ以上どこを甘やかせって言うのよ!」

全然我慢しているように見えないし、私の不満なんておかまいなしでやりたい放題。

これ以上甘やかす必要がある? ちょっとは自重してもらいたいくらいだ。

のしかかる彼の圧に耐えながら、湯船に浸かってため息をつくと。

「……でもね、澪」

不意に、私を抱きしめる腕が緩くなる。

圧しかかっていた重みがなくなり、まるで私を気遣うようにそっと体を支える彼は、背中に唇を埋めながら、小さな声でつぶやいた。

「俺がこうしてわがままを言えるのは、澪だけだよ」

「……っ!」

パーティー会場の、壇上に立つ彼を思い出す。

凛として、隙のない、次期社長としての顔。

寄ってくる客人には笑顔で接して、迫ってくる強引な女性にも、失礼にならないようにリップサービスを欠かさない。

財閥の子息として、完璧に振る舞いながらも、私を気遣い傍に置いてくれた。目を離さないように、大切に。
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