お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「で、この中にはなにが入ってるんだ」

「来年度の新人研修で使う教材セットが」

「一年ぶりってことか」

用途を聞いて、いっそう面倒だなぁと思ったのだろう。なにしろ、雉名さんは後輩を優しく育てあげるというタイプではないから。眉間の皺がいっそう深く刻まれる。

「ありがとうございます」

ペコリと頭を下げ、廊下を歩き始めた彼のあとについていく。

「……いろいろ大変だったらしいな。大丈夫なのか?」

おもむろに雉名さんがつぶやいたのは、柊一朗さんの会社のことだろう。

「……ドタバタしていますが、大丈夫です。三月いっぱいで現社長のお父さまが引退して、四月からは柊一朗さんが新社長に就任する予定です」

二年前、セクハラ事件を起こした常務は任を解かれ、合わせて彼を擁護した執行役員たちもこぞって責任をとらされ辞職、および降格させられた。

お父さまの現役を退くタイミングがちょうど重なり、まるでお父さまが不祥事の責任をとったような形になってしまい……。
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