お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
仕事であまりかまってやれなかったと、彼のお母さまは言っていた。その分しっかり育ったと。

確かにその通りだけれど……本当に彼は、寂しさを感じていなかったのだろうか。

食事を終えた私たちは、ワインとチーズを持ってソファへ移動した。

横並びに座り、彼は甘えるように私の肩を引き寄せる。

「子どもの頃は、つらかったんじゃありませんか? ご両親となかなか会えなくて」

上目遣いで覗き込んだ私に、彼はドライに言い放つ。

「そんなものだとあきらめていたよ。自分がちょっと特殊だってことはわかっていたし、我慢しなければと――」

と言ったところでワインをひと口飲んで、ぼんやりと外の夜景を見つめる。

「――つまり、寂しかったのかな?」

「……なんだか、柊一朗さんがかわいそうになってきました……」

自分が寂しかったことにすら気づかなかっただなんて。彼の幼少時代は、かなり過酷だったのかもしれない。

けれど彼はたいして気にした様子もなくふんわり笑う。

「今は澪がいてくれるじゃないか」

私の頭に顎を乗せ、撫でるように髪を梳いた。

「それに、澪のおかげで、最近よく家族と連絡をとるようになったんだ。母がうるさくてね。結婚式はどうするかとか、新居は建てないのかとか」
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