お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
私とは、全然違う世界に行ってしまう。来月になったら、きっともう、二度と会うこともなくなってしまうのだろう。

寂しい……。なんだか彼のスーツの裾を引っ張りたくなって、手を伸ばして……やめた。

私にそんなことをする権利はない。

「次の会社、いい会社だといいですね」

ごまかすように笑って、彼を見上げる。彼も「うん、そうだね」と笑顔で答えてくれる。

「転職かぁ……私も……一度はしたことがあるんですが……」

トラウマであるその記憶をわざわざ掘り起こしてしまったのは、お酒が入っていたせいだろうか。口に出したあとに気がついて、ハッとする。

飲みすぎかもしれない。彼が頼んでくれたワインがあまりにもおいしかったから、いつもよりたくさん飲んでしまった。

「転職、後悔しているの?」

私のつぶやきを拾い上げた彼に、かぶりを振る。後悔? ううん、全然。

今の会社で働けることになって、私は最高に幸せだ。
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