お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「ええと……あまりお話ししたことがなかったので……」

「話したことのない赤の他人だろうと、これ見よがしに困ってるやつがいたらさすがに助けるさ」

彼は私が入社する前からこの会社に勤めている開発部のメンバーで、名前を雉名大地(きじなだいち)さんという。

年齢はおそらく私より少し上、三十歳前後だろう。

仕事はよく出来るのだが、他人に気を遣うのが嫌いらしく、歯に衣着せぬもの言いの鬼課長として有名だ。

会社の飲み会にもほとんど参加せず、入社以来マイペースを貫き通しているのだそう。

彼は資材置き場の脇にある喫煙所へ行く予定だったらしく、火のついていない煙草を口にくわえて、ちょっぴり不機嫌そう。

「雉名さん。禁煙ですよ」

「火、ついてないだろ」

「モラルの問題ですから」

「あんたって意外と口うるさいんだなー」

そんなことを言いながらも、段ボールを片手で抱え直し、口にくわえていた煙草を胸ポケットへとしまってくれた。

その段ボール、片手でも楽勝なんだ……ちょっと驚いた。

彼は穂積さんよりもガッチリした体躯をしていて、見るからに力持ちって感じだ。

歩くペースがものすごく早くて、私は置いていかれないように、パソコンチェアの背もたれをガラガラと勢いよく押しながら小走りで彼についていった。

穂積さんと違って、私の歩くペースに合わせてくれるような気遣いはない。

でも、重たい段ボールを率先して運んでくれるあたり、本当は優しい人なのかもしれない。
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