お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
彼に勧められ、私たちは奥の席へと通される。

あっという間に目の前のテーブルが、超豪華会席に埋め尽くされた。

お飲みものは、と聞かれた彼のお父さまが、「一番いい日本酒を」と答えて、運ばれてきたのはヴィンテージものの大吟醸。

父はうれしそうにしながらも、あまりの好待遇についていけず、若干引き気味。

値段は恐ろしいので聞けないし、当然ながら教えてもらえない。

気にせず、なんでも頼んでくださいと勧められ、両親は恐縮しきりだ。

「偶然仕事でお見かけした澪さんに一目惚れをして、お食事にお誘いしたのがきっかけです。しかし澪さんは、私の素性を知ると、距離を置くようになってしまいました。身分の違う私たちに、未来などないだろうと……」

唐突に馴れ初め――しかもちょいちょい盛られている――を語り始めた彼に、一同、無言で耳を傾けた。

思わず私も食べることを忘れて聞き入ってしまったくらいだ。

なにしろ、まるでドラマに出てくる引き裂かれた恋人同士みたいに、ロマンティックに脚色されているのだから。

しかも、素性を知って距離を置いたってあたりは、彼の推論だろうか、おおむね当たっていて恐ろしい。

神妙な面持ちで頷いている両親に、どう弁解すべきか、悩ましいところだ。
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