お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「……穂積さん。いったいどういうつもりでこんな――」

「その名前はもういい。柊一朗と呼んでくれ。その着物、綺麗だね。よく似合ってる」

「ご、ごまかさないでください」

私が彼の正体に気づいていたことを、彼は知らなかったはず。なのに、悪びれもなく堂々と身分をさらけ出してきた。

しかも、両親まで巻き込んでお見合いだなんて。混乱するなって方が無理だ。

「わからないことだらけです。あなたのことも、どうしてこんなことをするのかも」

「それはもちろん、澪が俺の前からもう逃げださないようにするためだ」

「……私は三カ月前、あなたにちゃんとさよならを告げたはずです」

過去が暴かれるのが怖くて、自分から身を引いたのに。まさか追いかけてくるなんて。

「澪が俺とさよならをしたのは、俺が日千興産の役員であると気づいたからだろう。日千興産は君にとって、嫌な記憶の象徴だから」

ドクン、と鼓動が大きく鳴る。彼、もしかして、全部知ったうえで……。

「気づいてたんですか……? 私のことも……?」

「澪がうちで働いていたことは知っている。退社した経緯も」
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