お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「もちろん、澪を口説き落とすためだけに『新海エレクトロニクス』に籍を置いていたわけじゃない。見分を広めるために他社に身を置き、様々な職種や経営方法に触れて自分を磨く、これ自体は、千堂家が代々推奨してきたことなんだ。こうして歴代の当主たちも、広い視野や柔軟な考え方を身につけてきたらしい」

複雑な表情でうつむく私の手をとり、彼はおもむろに立ち上がった。

私の手を引いて、庭園の景色を眺めながら、一歩、二歩と芝生の上の敷石を踏みしめる。

振袖の私が転ばないように、たまに私の足元に目をやって、歩きやすいように気を配りながら。

「知人に手引きしてもらい、新海エレクトロニクスの社長に話を通した。『私が大手企業の重役であるということは内緒で、就業経験を積ませてください。もちろん、こき使ってもらってかまいません』とね」

わずかに口もとを緩ませて、彼が語る。

思わず足を止めたその頭上には、紅と緑のもみじの葉。紅葉の季節が近づき、梢の先端だけが紅く色づき始めている。
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