迷惑なんて思ってないよ
行ってこいと口の悪い男に背中を押され、柏崎さんに手を引かれ。校内へ続く階段を降りていったけれど、口から心臓が飛び出るくらいどきっとして嬉しい柏崎さんの手を離したかった。俺と手を繋いでいる事がバレれば虐めの対象になるかもしれない。また俺のせいで柏崎さんの体に傷を作ってしまうかもしれないから。
俺の心配とは裏腹に、周りの生徒は俺に見向きもしなかった。前に俺と目が合って気絶した先輩は俺にぶつかったにも関わらず前を見て歩けと怒鳴ってきた。珍しく眼鏡を掛けている柏崎さんに、教室に展示されていた鏡を指差された時。俺は驚きすぎて声が出そうになった。髪型を変えて眼鏡を掛けただけで別人になれるなんて知らなかったからだ。
眼鏡を外したら確かに俺なんだけど、眼鏡を掛けていれば自分でも鏡に謝ってしまうほどの別人で。あの口の悪い男が色んな眼鏡を掛けて来たのはわざと似合わない、バレにくい眼鏡を探していたからなんだ。
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