迷惑なんて思ってないよ
こんな理由で彼女を説得させられる訳がないと自分自身に呆れた。そんな時だった。彼女がそれは置いておいてというかのように違う話題を持ち出したのは。

「聞いちゃったんですよね、虐めの事・・・」

「・・・何で言ってくれなかったの?」

彼女はそのまま黙って何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。本当の事を言って俺が傷付いたらと思うとさっきの俺と同じように怖くなったのかもしれない。
母が生きていた頃は母が一番、人の事を思いやる優しい人なんだと思ってた。ただの小さな町工場で、社長に世話になったからと安い給料で働いて。自分が疲れているのに俺を電車の席に必ず座らせて。席を探している年配者がいれば声をかけていた。
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