迷惑なんて思ってないよ
泣き虫だった私を泣き止むまで抱き締めてくれた後や両親がいない中で晴人と出かける時。母は必ず私に言った。姉である私が気持ちを強く持たないと弟である晴人が泣いてしまうと、心配させてしまうと。

「そろそろ、帰ろうか」

「はい、分かりました。行こう、晴人」

両親が亡くなってから例え祖父母の前であっても、晴人は喋らなくなった。中学校でも喋らないからと何度か祖父母が呼ばれているらしい。でも、晴人は私と二人の時にしか喋らない。
喋れなくなったのかもしれない。幼い頃の口癖が消えちゃえという言葉だったから。でも、対象はいつも晴人本人だった。転んで泣いてしまった時は痛いの消えちゃえ、涙も消えちゃえ。物を掴んで壊してしまった時は悪い手なんて消えちゃえって。
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