迷惑なんて思ってないよ
長い年月が流れたせいで、母が亡くなった悲しみや無力感を忘れかけていた。家族や大切な人の死なんて、乗り越えられるはずも無いんだ。自分なりに受け入れるか忘れる事しか救われないんだ。

「大丈夫。生きてる。生きてるから」

彼女の体の震えは眠りに付くのと同時に収まり始めた。でも、俺の手は確りと握ったまま。朝になって目が覚めてからもずっと離れていなかった。
俺たちの家がある町に着いてから彼女は俺の手を名残惜しそうに離した。俺が勝手に思っているだけかもしれないけれど、俺に頼らなきゃいけないくらい辛いんだと思うと俺から手を握り直してしまいそうだった。でも、彼女が待っているのは俺の手ではない。愛する人の、俺ではない誰かの手を待っているんだ。
俺は出し掛けた手をしまい、反対側の手を振って見送った。津田さんは今日の事を彼女の祖父母に伝えるために着いていくらしい。
< 96 / 260 >

この作品をシェア

pagetop