天然お嬢様の恋はどこまでもマイペース
「あの後家内に小言を言われ、帰ってきた兄の喜一に説教されて、さすがにへこんでいたよ」

「申し訳ありません」
「君が謝ることではない」
「ですが・・・」

「なあ、田島くん。私は君を買っている。誠実な仕事ぶりも、お母さんや、周りの仲間に対する態度にも好感を持っている。とは言え、大事な一人娘を託すからには色々と調べさせてももらった」
「はい」
きっと、お父さんは夏輝とのことを言いたいんだと思う。

「先月、我が社の撮影会があって気分転換にと思って爽子に行かせたんだ。その日帰ってきてから、爽子の様子がおかしくなった」
「撮影会ですか?」
「ああ。打ち上げでモデルのナツキと話していて、その後いきなり飛び出していったらしい」

はーん。
そういうことか。

「ナツキとは親しいんだったよね」
探るような視線。

「ええ。大学時代からの友人です」
「そうか」

それきりお父さんは黙ってしまった。

「夏輝のことは、きちんと爽子と話をします。ご心配かけてすみません」
テーブルに手をついて、頭を下げた。

「いや、いいんだ。28にもなって、過去のない男の方がかえって怖い。そのことは君たちに任せる。ただ」
一旦言葉を切って、お父さんが俺を見る。

「いたらない娘だから叱ることもあるんだろうが、手を上げることだけはやめてくれないか。暴力は憎しみを生むから」
「は、はい」
もう一度、深々と、テーブルに頭をついた。

俺は父親って物をよく知らない。
世の中には色んな父親がいるんだとも思う。
それでも1つ言えるのは、高杉社長はいいお父さんだ。
こんな父親に、俺もなりたい。

そのためには、まずは爽子だな。
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