ヴァンパイア†KISS
それから10日あまりがたったある日。

いつものように酒場で情報収集をしているウルフガングの耳に、エマの名前が飛び込んできた。

「聞いたか!あのエマって娘とうとうやっちまったらしいぜ。ベンの奴の暴行にキレてナイフでグサっとやっちまったらしい」

「ああ、でも最近一緒に暮らしていた親に売られた少年がやったって話もあるぜ。なんにしてもベンの奴は無事らしいけどな。ま、所詮子供の力だからな。全治2週間だとよ」

「ちっ。あいつも悪運づいてるぜ。ぽっくりいっちまえば良かったのによ」

ウルフガングは風のように席を立つと、酒をつごうとするブルースには目もくれず出口へ走る。

「あ、ウルフ様!?」

「所用だ」

エマと一緒に暮らし始めた少年、カルロのことは見知っていた。

けして笑顔も見せないあの少年。

だが、エマといるうちにだんだん浄化されていくように、少しずつ表情の硬さをなくしていった。

ウルフガングにはわかっていた。

カルロがエマに惹かれていったことを。

あの少年もエマもよほどの事がない限り、あのベンという輩を傷つけることはしないだろう。

二人は、あの腐れた人間に触れてもなお、汚れることを知らない。



…………純粋すぎるのだ―――!!




ウルフガングが月下のもと、瓦礫の山に駆け寄ると。

微かに薫る見知った者の甘い血の匂いが鼻をかすめた。

そのもとを探し土を掘る。



「………エイダ……」

あまりにも無残に一突きにされた子猫に思いを馳せる。

………胸の中に枯葉が吹きすさぶような空虚感。

哀しみとは、こういう感情だろうか……。

だが、このような小さな生物ならヴァンパイアの血で甦らせることができる。

ウルフガングはなんの迷う心もなく、自らの手首を噛むとその血をエイダに飲ませた。




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