ヴァンパイア†KISS

100年キスして†第3夜†

1898年、2月。

ロンドン郊外。

カランと響くドアベルの音に酒場の店主、ブルースが反応する。

「あ、お客さん、もう店じまいですが…」

その制止も構わずに、長い銀髪を首の後ろで束ねた男と、金髪の少年が酒場へと入ってくる。

「ウルフ様でしたか。あ、え~と、その子供は……?」

ブルースはウルフガングが少年を連れて入ってきたことに驚き、目を疑った。

金髪に青い目のその少年は、ブルースを下から睨みつけるように見上げると、「お前もヴァンパイアか…?」と威勢を張った。

「ウルフ様…!」

ウルフガングは苦笑してカルロの頭を撫でる。

「ヴァンパイア志願の人間、だ」

「ウルフ様!?」




「ウルフ様。僕は反対です。人間をこの地下房ガイアに入れるなんて。ユーゴ様たちがなんと言うか……」

「カルロは大丈夫だ。決して裏切らない」

「しかし……!」

ウルフガングは止めるブルースを振り切り、ヴァンパイアの巣窟であるこの地下房へと足を踏み入れていた。

地下房への道は、ブルースの酒場のカウンターの壁の小さな取っ手を引くと開くしくみになっており、人一人やっと通れるような穴をかいくぐりさらに床のフタを開けると狭い地下道が現れる。

地下房ガイアは網の目のように張り巡らされており、狭く暗い地下道を渡り、途中いくつものヴァンパイアたちの寝室を通り過ぎると巨大ダンスホール「ヴァンパイア・キス」が煌びやかな光を放ちながら登場する。

その道を一歩一歩かみ締めるように歩くウルフガングの胸には、激しく去来するものがあった。

カルロなら、ヴァンパイアとともに歩めるかもしれない。

………人間として。

カルロとエマと出会って初めて。

ウルフガングには、人間と相容れたいという気持ちが芽生え始めていた。

そしてそれは、人間とヴァンパイアの間に道を作るかもしれない。

………エマを愛し始めていたからか、今までのウルフガングからは考えられない行為だった。

そして、このことはウルフガングが孤独だったということにも起因していた。


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