ヴァンパイア†KISS
それから10日間あまり、夜になるとカルロはこのガイアに通いつめウルフガングからワルツを習い続けた。

その間、ウルフガングの勧めで、カルロはエマをロンドン郊外にある修道院に連れて行き、その場所に身を寄せていた。

その修道院は身寄りのない子供達を数人預かり育てていた。

ウルフガングがその事を知っていたのは、その修道院のほど近くに彼の気に入りの場所があったからである。

人間たちが人間たちを弾劾するために作った隠し地下牢。

いまやその場所は忘れ去られ、誰も訪れることのない場所となっていた。

ウルフガングはこの場所を気に入り、一人になりたい時、必ずこの地下牢を訪れていた。



「カルロ、そうだ。それがホールドだ。ワルツでは、この女性と組むときのホールドの形を崩さないことが重要なんだ」

カルロは女性を抱く姿勢でピンと背を張りながら、真っ直ぐに前を見つめる。

「ウルフ、相手がいないとイメージがつかめないよ」

「カルロ、もう少し待て。お前は筋がいい。必ず良いダンサーになれる」




その時。

ウルフガングの足首に、黒猫のエイダがその頬を摺り寄せ「ニァー」とひと鳴きした。

「エイダ……?」

二人が練習をするこの「ヴァンパイア・キス」で。

一すじの陽が差した様に、ヴァンパイアたちはその一点を見つめた。

「なんてこと……人間の子供だわ…!」

「このヴァンパイア・キスに二人も……!」

ウルフガングはエイダを胸に抱くと、口々に驚愕の視線で凍りつくヴァンパイアたちを掻き分け、その見知った香りに近づいていく。

金糸の巻き毛に雪のように白い肌。

愛らしい碧眼をくるくるさせ、白のドレスを花のように煌かせるその少女は「ヴァンパイア・キス」の入り口にきょとんとした顔で立っていた。

(……エマ…これが運命なら、私は神に感謝と、祈りを捧げねばなるまい。……どうか、エマをこのままで………!)



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