ヴァンパイア†KISS
「君、名前は?」

この場所で、初めて言葉を交わすことを不思議に思いながら。

「……エマ」

「そうか、迷い込んでしまったんだね」

ウルフガングは優しく微笑むと、エマの白い手をそっと握りホールの中央へとエスコートしていく。

(これが、全ての運命の始まり……か。いや、私がエイダを救った時から、それは始まっていたのかもしれない……)

エイダは気持ちよさげにウルフガングの胸で鳴くと、エマとウルフガングが繋ぐ手をじっと見つめていた。

「ブルース。どういうことだ?」

ホールの隅から一部始終を見つめていたデュオは、責めるようにブルースに冷たい視線を送った。

「あ……も、申し訳ありません!酒場の入り口を閉めるのを忘れていたようで…。あの黒猫、最近よく酒場に入り込んでいたんで、あの少女も猫につられて紛れ込んだのかも……」




「カルロ、今夜からエマを相手に練習できるぞ」

「カルロ…、あなたワルツを習っていたの?」

カルロは恥ずかしそうに頭を掻きながら、下を向いた。

「カルロ、恥ずかしがることはないぞ。お前は絶対に美しくなれる」

そう強く言い切ったウルフガングをエマは傍らで、じっと見上げていた。

(この優しい雰囲気、わたしはどこかで感じたことが……)








< 126 / 411 >

この作品をシェア

pagetop