ヴァンパイア†KISS
ダンスホール中が静まり返る。

誰もが、そのカップルのいないたった一人のワルツに言葉をなくしていた。

数十年は誰も見たことがないようなその華麗なワルツに、動くことができない。

そんな空気がダンスホール中を支配していた。




タンタンタンとダンスシューズを踏む音が軽やかに鳴る。

誰かが動いた気配にヴァンパイアたちはその視線を送った。

その中を掻き分けウルフガングに走り寄ってくる白のドレスの少女。



「ウルフ………!!」



エマは白のドレスを舞わせ、ウルフガングに飛びつくと目一杯顔を上げて愛らしい瞳をくるくるさせた。

「エ……マ…?」

「ウルフ!あなたのワルツ、ほんとうに素晴らしかった!いつか、いつかわたしもウルフと踊りたい……!!」

エマの笑顔から一すじの光るものがその頬を伝った。

不思議に思ったウルフガングが腰をかがめエマの顔を覗き込む。

「エマ、なぜ、泣いている?人間は悲しい時に泣くのではないのか?」

「人間」と言ってしまってハっとしたウルフガングには気づかない様子のエマはにっこりと微笑むと、

「この涙は感動したってことよ!」

そう言うと、ウルフガングの頬に小鳥のようにくちづけをした。




その瞬間。

ワっと鳴り響く拍手喝采。

「……素晴らしい!!やはりウルフ様だ!!」

「ウルフ様がヴァンパイアの皇帝だ!!」

ダンスホール中が感動のるつぼに包まれていた。


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