ヴァンパイア†KISS
クローディアがウルフガングに駆け寄ろうとしたその瞬間。

ウルフガングの部屋にピシっと鋭い音が稲妻のように走ったかと思うと、壁一面に亀裂が入った。

思わず足を止めたクローディアがウルフガングを見ると。

彼は、両腕で自らの体を抱きしめながら体を小刻みに震わせていた。

「……ウルフ…」

震える肩が、まるで少年がそこにいるかのように、クローディアの母性を刺激した。

「ウルフ……あなた…愛する人ができたのね……?体はわたしを欲しがっているのに、心が拒絶している……。あの人間の少女……そうでしょう?ウルフ」

ウルフガングは雷に打たれたように顔を上げると、まさか、という表情で苦笑した。

「いいえ、あなたはまだ自分の愛情がそれほどとは意識していないでしょうけど。なにせ、まだ10歳の少女……。でも、永遠という長い時を生きるヴァンパイアにとって、歳の差の概念なんて全くないに等しい。ほんの10年待てば彼女は美しい女性に変身する。そう、ヴァンパイアにとっては10年なんて、ほんの一瞬よ」

ウルフガングは、エマに出会ってからのこの数年を考えていた。

ヴァンパイアに5歳の時に母親を殺されても、健気に生きてきた少女。

人間がヴァンパイアの存在に気づくことがないか観察しながら、彼女を傍らで見護る時の高揚とした気持ち。

誰をも魅了するその………笑顔。

その笑顔を向ける相手が、自分であったなら………!

ウルフガングは片手で目を伏せながら、くっと笑みを漏らした。

「……クローディア、認めよう。私はあの10歳の少女を愛している。……もう、ずっと前から。彼女が大人になるのを……待っているのだ、この心は……!!」

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