ヴァンパイア†KISS
クローディアはその言葉を聞くと、悲しそうな笑みを漏らした。

「羨ましいわ、あの少女が。そこまで想われて。わたしもせめて人間になって涙を流せたら……」

クローディアは落ちていた自分の赤のドレスを拾い上げると、ドアへと歩き出した。

「……さようなら。ウルフ……」

パタンと閉められたドアをウルフガングはぼんやりと見つめていた。

(クローディア、済まない……)



「待って!」

自室へ戻ろうとするクローディアを止める声があった。

地下房の狭く暗い廊下の中。

振り返ったクローディアの瞳に、金髪の小さな少年が映った。

「お前は……」

「僕は、カルロ。人間だ。僕はウルフに僕をヴァンパイアにしてほしくて、彼の部屋に行ったんだけど………二人の話を聞いてしまったんだ……」

バツの悪そうな顔でクローディアを見つめるカルロ。

「子供には刺激的過ぎたかしら?」

冷たくあしらおうとしたクローディアに、

「……クローディア!僕をヴァンパイアにして!あなたはほんとは優しい人だから…。僕をヴァンパイアにしてくれるよね!?」とカルロは詰め寄った。

「……どういうこと?」

「僕は、強くなってエマを護りたいんだ。でも、ウルフは僕をヴァンパイアにはしてくれなくて……。だけど、ウルフのエマへの想いを知って、僕はますますウルフを美しいと思ったんだ。僕は……ウルフのように、強くなりたい……!!」

………人間の血の、甘い匂いがする。

クローディアは、人間の血を食らったことがなかった。

けれども、目の前にいるこの美しい少年。

まだあどけないこの少年の、

汚れを知らないその血に溺れて死ぬのも………。

「悪くはない、わね……」


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