ヴァンパイア†KISS
誰もいない薄暗い教会のマリア像の前で。

いや、ドアの外をカルロに護られながら。

二人は9年ぶりの再会に胸を熱くしていた。

そしていつしか二人は、マリアの前に倒れこむとお互いを慈しむように抱き合った。

「エマ……私は、君に触れる資格は……ないんだ…!」

「じゃあ、資格をあげる……」

エマはそう言うと、胸の十字架をはずし、ウルフの首にかける。

「……エマ…!!」

「マリア様はあなたの太陽のような笑顔を愛していらっしゃるわ。この十字架はマリア様の許しを得たしるし、よ」

「エマ……君はやっぱり、不思議な人だ…」

ウルフはゆっくりとエマを教会の赤の絨毯の上に倒すと、その胸に十字架をゆらゆらと揺らしながら。


エマの首筋に、キスの刻印をしるした―――。



「う…ふ…ぅ………あぁ…!」

エマの麗しい吐息が教会にこだまする。

「ウルフ……キスして。あなたの甘美な唇が、欲しいの――!」

ウルフガングは苦しげに瞳を細めると。

「エマ、済まない。キスはできないんだ。人間の君はたちまち廃人になってしまう…だから…!」

「ウルフ……なら、わたしをヴァンパイアにして…!わたしはあなたと同じでありたい…!!」

「エマ、君にはこのままでいてほしい。君は、私が見た人間で最も美しい人だから……!!」

ウルフガングには自分の余命がわかっていた。

このままエマをヴァンパイアにしてしまいたい。

そんな衝動に駆られるのを思いとどまらせているのは、彼の愛だった。

永遠に生きなくてはいけないヴァンパイアになってしまえば、エマは自分がいなくなってもずっと生き続けなければならない。

……エマに、そんな思いはさせたくない。







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