ヴァンパイア†KISS
その甘美な夜がまだ明けきらぬ薄暗い時間、マリアの前で寝息をたてて眠っていたエマは、教会のドアが開く音とともに目覚めた。

「そんな格好で寝ていると、風邪をひきますよ、エマ様」

聞き覚えのあるその声にエマは飛び起きると、裸にウルフの黒のマントを羽織っているだけの姿に驚き慌てた。

薄暗い教会のドアに立っているその人物を目を凝らして見つめる。

確かに見覚えのある人物。

でも、9年の月日がその姿を全く変えていないなんて……!!

「初めましてと言うべきでしょうか?エマ様。私はウルフ様に忠誠を誓うカルロ。そのウルフ様に愛されるエマ様もまた、私の主で在らせられます。このカルロの微笑みはお二人の為だけに……」

姿勢正しく一礼をするその少年にエマは、

「……カルロ…!!」

と思わず叫び立ち上がっていた。





「え……ウルフは戻ってこないの……!?」

まだ薄暗い教会の長いすに座りながら、修道着を着たエマと白のセーターを着たカルロが9年ぶりに顔を会わせ会話していた。

カルロは近くの地下牢に身を隠しエマを見守りながらもエマの前に姿を現したことはなかった。

いまだ10歳の少年の姿をしたカルロにエマは違和感を感じながらも、初めて見るカルロの微笑みに硬かった氷が溶かされていく、そんな想いがしていた。

「ウルフ様はご自分がエマ様の近くにいると、エマ様に危険が及ぶ。そうお考えなのです。そして、いずれヴァンパイアにしてしまうかもしれない。ウルフ様はそれを一番に怖れていらっしゃる。……そういうお方です。エマ様の愛していらっしゃる方は……」

カルロは少し誇らしげな口調で話すと、エマを慰めるように愛らしい笑みを彼女に送った。



(………ウルフ……!!わたしはまだ、あなたに愛してると、言ってないのよ……!!)



――――ウルフ…………!!!









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