ヴァンパイア†KISS
カチコチと掛け時計の音がやたらと耳に響いてきた。

わたしはこの沈黙をどうしていいかわからず、ひたすら下を向いてナイフを動かしていた。

ど、どうしよう……気まずい……!

わたしの前の席には、ルシアがいて、その隣には……デュオがいる。

デュオもルシアも上品な手つきでナイフを動かしながら静かに料理を口へと運んでいた。

隣で静かにワインを飲んでいたかずちゃんがグラスを置くと、おむむろに話し出した。

「デュオ、君は花恋と知り合いだったようだけど、どこで知り合ったんだい?」

その声のトーンは静かだったけど、隣の席からかずちゃんの緊張が伝わってくるかのようでわたしまでドキドキした。

デュオは、ナイフを動かす手を止めると、斜め前に座るわたしの顔を見た。

一瞬、射抜くような視線にドキリとした。

でもデュオはたいした問題じゃないというような顔をすると、

「彼女は神藤社長が主催していた仮面舞踏会に来ていたんでね」

肉料理を口に運びながらかずちゃんを一瞥した。

かずちゃんは、いつもの柔らかい印象とは裏腹に挑戦的な声のトーンになると、

「へぇ…。父さんの仮面舞踏会か。でも、仮面をつけていたのに、この前の婚約パーティーではよく花恋だってわかったね」

そう言って真っ直ぐにデュオを射抜く。

デュオは目を細めてワインを一口飲むと、そのグラスを右手で顔の横にかざして、不敵に微笑んだ。

「唇に一度触れればわかる」

「……な…!?」

デュオ………!!

かずちゃんは、驚きの顔でイスからガタンと派手な音をたてて立ち上がった。

真ん中に神藤社長を挟んで、冷静な顔のデュオと取り乱した様子のかずちゃんが見詰め合う。

デュオはコトンとグラスをテーブルに置くと、静かに微笑んで言った。

「…冗談だよ」







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