ヴァンパイア†KISS

バラの刻印

ヴァンパイアの女性に連れられて、わたしとエマは広間へと入っていった。

広間の壁や天井にはたくさんのモザイクが飾られていて、特に天井の高みからこちらを照らすように飾られている月のモザイクは幻想的で、広間の一番のメインのように輝いていた。

広間の中心では、大きな燭台が吊り下げられロマンチックにわたしたちを照らす。

そしてこの広間には既に50名ほどのヴァンパイアたちがドレスやタキシードで着飾って集まっていた。

その広間の端の一角に、女性たちの人だかりがあった。

彼女らは何かを囲んで嬉しそうに頬を紅潮させていた。

「あれ…何かな?」

「あらあら、真ん中にいるのはシエルね。わが子ながらモテモテだこと」

エマがやれやれというように肩をすくめた。

「シエル?」

確かにその人だかりの真ん中に立っているのはシエルだった。

シエルは笑顔を絶やさずに、若い女性たちがにじり寄ってくるのを手を挙げて降参でもするかのようなポーズをとっていた。

「わが子ながらシエルのヴァンパイアオーラにはすごいものを感じるわ。あのオーラに女性たちも引き寄せられる。シエルに抱かれるのが彼女らの望みなのでしょう」

「え!?シエルってそんなに?」

確かにオーラはすごいものを感じるけれど、女性として惹かれる…とまでは。

「まぁ、シエルにはまだ決まった女性がいないし、そういうところも惹き付けているのでしょうね。あら、あそこに唯一白けている女性がいるわ」

「え?」

エマの指す方を見やると、シエルたちを遠巻きに見つめるようにわたしたちのすぐ傍の壁に寄りかかるルシアがいた。

ルシアはシエルに群がる女性たちを軽蔑するかのような目つきで見つめる。

シエルはその集団からやっと抜け出るとわたしたちの方へ駆け寄ってきた。

「あ~大変だった。女性って怖いもんだね、母さん」

「そうよ、シエル。気をつけなさい」

エマは注意しながらもクスクス笑う。

「バカみたいね。こんな子供に群がっちゃって」

わざと聞こえるように言うルシアの声にわたしたちは振り返った。


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