ヴァンパイア†KISS
ユーゴの顔は、まさしく獣のそれだった。

浅黒の顔には幾本ものスジが走り、乾いた唇からは長い牙が垂れ下がる。

白い眼球部分さえなくなり、全てがバイオレットに染められた瞳だけが異様なほどに妖しく煌いていた。

「…デュ…オ…お…前…か?バイオレ…ット…ムーンの持ち主……は…」

バイオレットムーン……?

「デュオ、バイオレットムーンってもしかして……!」

デュオはわたしの肩をぎゅっと握り締め、小声でつぶやいた。

「…シエルのことだろう。父は、シエルの強いヴァンパイアオーラに惹き付けられている。……父は既に、獣に成り下がった……」

「デュオ……私と…ヴァンパイアの王になるのだ…!お前の強いヴァンパイアの血を……この父……に…!」

ユーゴのマントが風になびいたと思った瞬間、細く長い剣がそのマントを切り裂くように現れ、デュオの頬をかすった。

「デュオ!!」

ユーゴは振り向きざま、わたしに視線を止めると、その剣をわたしの首へ向けるようにまっすぐに空気を貫いた。

「…カレン!!」

ズブ……!!

肉を貫く音が、一瞬空気を止めた。

わたしの前に体を押し出したデュオの肩から、ポタポタと血の流水が次から次へと溢れ出ていた。

「デュオ!!」

デュオはわたしに背を向けたまま、ユーゴとにらみ合っていた。

ユーゴはデュオの肩に剣を刺したまま、微動だにしない。

「父…上。一体何人のヴァンパイアの心臓を貫き、その血を食らったのですか?そのような姿に成り果てるには……100人はくだらないでしょう…」

「まだ…だ。私が探し求めて…いるの…は、もっと気高い…強力な……ヴァンパイアの……血…」




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