ヴァンパイア†KISS
全員が採血を終え、神藤社長もドクターも城を出て行ったあと。

わたしは神藤社長の見送りを終え、デュオとわたしの部屋の前まで戻ってきた。

微かな月明かりに照らされて、銀色に艶光りする長い髪の毛が見えた。

……ルシア!!

ルシアは壁にもたれた体を起こすと、わたしをゆっくりと振り返った。

「…ルシア、どうしたの?」

ルシアは重たげに瞬きをすると、今にも消え入りそうな笑顔で言った。

「いいわね、あなたは。みんなに愛されていて…」

「…ルシア」

「わたくしを愛してくれるのは、お兄様だけ。でも、わたくしはそれでよかった。お兄様にさえ愛されていれば何もいらない。孤独も感じない。お兄様も同じだと思っていた。なのに、あなたが現れて、わたくしは気が狂いそうだった。たった一人の愛する人を奪わないで。わたくしにはお兄様しかいないのに…!」

「ル…シア…」

ルシアは白く透き通るような手を美しい銀髪に埋める。

「…でも、シエルに抱かれて気付いた。それは愛じゃない。孤独を埋めるための独占欲だと。シエルは優しかった。優しくわたくしを抱きながら、わたくしの心を溶かした。シエルは不思議な力を持っているわ。抱きながらその女性の心をまるごと包み込み、優しくその本心を剥き出しにする。彼に抱かれたあと、わたくしはしばらくからっぽだったわ」

ルシアは微笑んだ。

無垢な子供に還ったようなピュアな笑顔。

「お兄様もきっと同じ。わたくしを愛していたわけじゃない。わたくしの孤独を知っていた優しいお兄様は、わたくしの孤独を癒そうとしてくれていただけ。そう、百数十年もの間のわたくしたちの関係はそれだった。……もうそろそろ、お兄様を解放してあげなくてはね」

ルシアは微笑みながらゆっくりとわたしに近づくと、ふわりとわたしをその柔らかい体で包み込んだ。

< 289 / 411 >

この作品をシェア

pagetop