ヴァンパイア†KISS
「お兄様をお願いします。けしてお兄様を一人にしないで」

……ルシア……!!

ルシアの柔らかい銀髪がわたしの胸から離れる。

目を細め、月明かりに消え入りそうな美しい笑顔を向けると、ルシアは踵を返して背を向けた。

その背中がとても寂しそうで、わたしは動けなかった。

ルシアの笑顔にわたしは気付いてしまった。

ルシアはデュオを愛していなかったわけではない。

愛していたけど、「気付いた」のだ。

愛しているけど、ずっと消えない孤独。

デュオを愛することの「孤独」に。

そしてそんな自分を癒してくれる兄の孤独も……。

「…ルシア…ありがとう。わたし、あなたに負けないくらいデュオを愛してる。けして彼を一人にしない…!!」

ルシアは振り向かずに言った。

「シエルはあなたのために、わたくしを抱いたのね。……やっぱり、あなたが羨ましいわ」

立ち去っていくルシアを見つめながら、わたしは静かに流れる涙の温かい温度を感じていた。

キィと開いたドアから、肩に包帯を巻いたデュオが出てきてわたしをそっと後ろから抱きしめた。

ルシアはデュオがそこにいることを知っていて全てを話してくれた。

彼女にとってそれは、デュオへの別れの言葉だった。

デュオが囁くようにわたしの耳元に声を落とす。

「ヴァンパイアの命は永遠だからこそ、その孤独の闇もまた深い。今ある孤独が永遠に続くのではないか、そういう恐怖に駆られることがある。カレン、君も完全なヴァンパイアになれば、そういう恐怖に駆られることになるだろう…」







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