ヴァンパイア†KISS
涙など流れようはずもない。

ヴァンパイアは人間のように哀しみを表す術を知らないのだ。

だが、齢100年は自分よりも若いこの少年に、自らの哀しみを悟られたのを知ると、ウルフガングは苦笑した。

「カルロ、100年身を隠せ。その月日がヴァンパイアの存在を忘れさせるだろう。そして、エマと私の子を……頼む」

「はい。この血に誓って。カルロはウルフ様に忠誠を誓った身。エマ様とお子は、このカルロにお任せください」

ウルフガングはカルロへの指示を終えると、棺おけに近づきその蓋をゆっくりと開け放った。

一瞬、太陽が上りつめたかのような眩しさに、ウルフガングは目を細めた。

「エマ様はいつお目覚めになられるのでしょうね」

カルロはウルフを気遣うような神妙な面持ちでつぶやく。

棺おけの内には、西洋人形と見紛うような美しい金糸の巻き毛をまとった少女が横たわっている。

白い雪のような肌に長いまつげを伏せ、ふくよかに膨らんだ腹部を大切そうに両手で護りながら。

「エマ、君をヴァンパイアにした私を許してくれ。……そして、勝手に別れを告げる私も」







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