ヴァンパイア†KISS
「時間がない。シエル、行くぞ!」

デュオはわたしの手を掴み、城の正面の入り口に向かって走り出した。

「デュ、デュオ!」

手を引かれながら後ろを振り向くと、シエルがぽかんとした表情で立っていた。

「は~い、兄さん。デュオ兄さんて、時々怖いよね?ブルース」

「…僕にはいつも怖いですよ」

ほんとうに、この危機をわかっているのか、どうなのか……。

子供のように舌をペロリと出して走り出すシエルを見ながら不安になった。

でもほんとうは……シエルも愛する人を失うのは怖いはずだ。

怖いから深刻にしたくない。

そう考えるのは、おかしいかな?

ねぇ、シエル……。


城の正面の重たい門をデュオがゆっくりと押し開ける。

ギィイイという音が城全体に響き渡るように重厚な音をたてた。

開けた先に何が待っているのか不安に駆られたわたしはデュオの傍でじっとしていた。

開け放たれた城は、なんの電灯もない真っ暗闇に、ところどころロウソクが灯っているだけだった。

でも、見える。

ヴァンパイアの瞳に、暗闇などなんの障害にもならない。

デュオは両端に2階へと上る階段のある1階の広い吹き抜け部分をゆっくりと、周囲の様子を窺うように歩を進める。

「…1階は無人だ。上へ進むぞ」

デュオを先頭に左側の階段を全員で突き進む。

長方形の大きな窓から月明かりがわたしたちを正面から照らし、わたしは一瞬あまりの眩しさに目を細めた。

なぜ?

月がこんなに眩しいなんて……?



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