ヴァンパイア†KISS
「………父さん…」

シエルの泣き顔は子供のようにくしゃくしゃだった。

ぐしゃぐしゃに涙を零して顔を歪める。

ウルフは眩しげにシエルを見つめ、やがてゆっくりと、その指でシエルの頬に触れた。

「……君のオーラは…知っている…。エマが…大切にその体に抱いていた私の……」

「父さん、そうだよ。僕は、あなたの息子のシエルだ。100年間、母と一緒にあなたに会える日を待ち焦がれて……いた」

ウルフは目を細め、泣き崩れるわが子を静かにその胸に抱きとめた。

「シエル…お前はエマに…そっくりだ…」

シエルを抱くウルフの瞳に、うっすらと涙が浮かんで瞬く間に流れ落ちていった。

……ウルフも涙を流すなんて……!!

泣きじゃくるシエルを照らす月光が徐々にバイオレットの光へと変わっていく。

バイオレットの光は、夜空に浮かぶ月までも呑み込むように霧のごとくあたり一面に立ち込めていく。

……感じる。

シエルが月の力をその感情の高ぶりによって受容し、高めていくのを。

今夜はまだ半月。

その力も半分しか発揮できないのだろうけれど……。

ヴァンパイア全てに影響を与えるかもしれない力を持っているというシエル。

それは……このことだったんだ。

ヴァンパイアには不可能な感情表現………涙を流すこと。

シエルは、無機質な印象を与えるヴァンパイアの特質さえ、変えようとしている。

「…父さん、母さんも抱いてあげて。僕が必ず助けるから…」





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