ヴァンパイア†KISS
「父上……!」

デュオが父の姿を目で追う。

その瞳は、まるで100年ぶりにその姿を見たかのように驚きで見開かれた。

「100年…まるで100年前だ……!」

ユーゴの姿は、何日か前にヴァンパイアの城やサラの城で見た醜悪な姿とはまるで違っていた。

顔一面に浮かんでいた血管が綺麗に消え去った、美しい浅黒の肌。

若々しいバイオレットの瞳の輝きに、麗しく流れる銀髪のウェーブ。

ユーゴは薄く笑みを浮かべると、ゆっくりとダンスホール中央にいるエマとウルフのもとへと歩いていく。

そして彼らの前でピタリと止まると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ウルフ、そのような軽いダンスでは、妻が退屈するのではないか?」

ゆっくりと唇を舐めるように舌を躍らせるユーゴをウルフが目を細め、冷たい視線を投げかける。

「……ユーゴ。クローディアだけじゃ飽き足らず、エマまでも私から奪い去るつもりか?」

「…くっく。ウルフ、さすがだよ、お前は。さすがに私の弟だけのことはある。全員が私の月の力によって100年前の意識に戻り、私をヴァンパイアの王と崇めているというのに…」

ウルフはユーゴを鋭く睨むと、隣にいるエマの頭をそっと自分の胸に引き寄せた。

「エマも100年前の10歳の人間の子供だったころの意識に引き戻された。私を愛する前のエマにな」

「くっく。なんと楽しい余興だ!これで私のこの月の力でエマにキスをすれば、お前の妻はたちまち私の虜になるであろう!そうして私は再び良き伴侶を得て、ヴァンパイアの王に君臨するのだ!!」

………なんてこと!!

ふるふると震える肩を止めることもできずに彼らを見つめていたわたしの横で、デュオがつぶやいた。

「そうか、父がシエルから得た月の力がヴァンパイア・キスを100年前の世界に戻した。だが、月の力を持っている者なら意識を奪われることはない。カレンと、そして月の力の込められたこの十字架を持つ私……。そして、ウルフもきっと僅かながらも月の力を持っているのだろう」


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