ヴァンパイア†KISS
ウルフガングは瞳を伏せ、

ゆっくりと愛しい者に顔を近づけると、その繊細で美しい両の手でエマの頬を包んだ。

ウルフガングの白く美しい顔が、雪のように舞い降りる。

そして、彫刻のように美しくかたどられた唇が、エマの柔らかな桃色の唇をキスで捕らえると。

小さな地下牢に、ヴァンパイアの愛と、哀しみが切なくも芳しく香った。

その光景を月のように静かに見つめながら、カルロは想う。

(ヴァンパイアキス……。ヴァンパイアの最も美しい瞬間を、今、私は見ている。キスはヴァンパイアの愛そのもの……)

ウルフガングは長い長いキスを終えると、エマの頬に零れているものに気づき、確認するように瞬きをした。

「カルロ…これが、涙というやつ……か?」

エマの白く粉雪のような頬に、一すじの涙が伝っていた。

「エマ様はもと人間です。きっとウルフ様を想って泣いておられるのでしょう…」

「愛する者を想う涙。人間とは、かくも美しいものか……。私はエマに会って初めて、人間の美しさを知ったよ、カルロ。だが……!」

ウルフガングは、エマの涙を指でふき取ると黒のマントを右手で払いながら立ち上がった。

「この世で一番美しきもの、それは……ヴァンパイアだ!」

カルロはウルフガングが重々しい地下牢の扉を開け放ち、外に飛び出して行くのを微かに微笑みながら、目で追い続けた。

(ウルフ様。このカルロ、この先何百年生きようと、あなた様ほどの見目麗しい生命を見ることは、もうないでしょう…)




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