ヴァンパイア†KISS
「……泣いているのかい?」

そう言われて我に返ったわたしはその人物を振り返った。

ニコニコと優しい笑顔で立っていた理事長は白のハンカチーフをわたしに差し出す。

「あ……」

自分が泣いていることに気づかないくらいデュオしか見えていなかったことに驚き、慌てた。

わたしは理事長のハンカチを受け取ると、そっと零れていた涙をふいた。

「君もどうやら恋の相手ができてしまったみたいだね。私にとっては残念だが」

理事長はそう言って冗談っぽく笑ったと思うと、わたしの首筋を見て凍りついたように動きを止めた。

「……理事長?」

「その刻印、たった今つけられたんじゃないかね?」

「あ……!」

デュオしか見えなくてぼーっとしていたわたしは、さっきストールを落としてキスマークを隠していた首が露になっていることにやっと気づいた。

「この中に……ヴァンパイアがいるらしいな…」

理事長は獲物を探すライオンのように周囲を見回し始めた。

「ち、違います!これは……ヴァンパイアじゃなくて…」

ヴァンパイアを捕らえようとするかのような理事長の視線が怖くて、わたしが必死で弁解しようとしたその時。


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