ヴァンパイア†KISS
(なぜ、この少女は涙を見せないんだ…)

カルロはこれほどの不幸を背負ったエマの他人をも幸福にするその笑顔に、言いようもない驚きを感じた。

それから数日間、男は相変わらずエマだけを虐待し、カルロには指一本触れなかった。

(エマが僕のために男の怒りを一身に集めているんだ……)

男に殴られても、けして涙を見せないエマを傍で見続けたカルロは、初めて人のために涙した。

(僕は……エマを不幸にしている)

そんなある日。

男の虐待はエスカレートし、ついにエマの大切にしていた黒猫のエイダを連れてくるとエマの目の前でナイフで一突きにし、黒猫は息絶えた。

この時ばかりは、エマは「いやぁ―――あああ!エイダァアアア!」と泣き叫ぶと、血を流し息絶えたエイダを抱きしめその真っ白なドレスを血に染めた。

カルロは、この光景をスローモーションのように見ていた。

(あってはならないこと……。あんなに綺麗なエマが汚されるなんて、あってはならないこと……だ…)

カルロの思考はそこで止まると、無意識のうちに男をナイフで刺していた。

男は息絶えただろう。

その結末を見ることもなく、カルロはエマの手をとると、家を飛び出していた。

血に濡れたエイダを抱きしめるエマからは、なんの表情も読み取れなった。




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