君の隣。

あの日から6日経っても、ヒナツからの反応は一切なかった。もう会わないつもりなのか、とか、やっぱり僕が盲目だからかな、とか、マイナスにしかならない、考えなくていいことまで考えてる自分がいる。それでも、何か原因がないと不安で仕方ない。やっぱり、直接会いに行こうって思うけど、1人では不可能..._________ん?

可能性、あるかもだ!

次の日僕は、病院のナースステーションに向かった。
「あの」

すぐに僕の担当の女性看護師さんが気づいてくれた。彼女は僕がこの病院に来てからずっとお世話になっていて、とても仲が良い。

「どうしたの、奏くん?」

「あの、ヒナツって、僕と同い年の女の子がこないだ退院したと思うんですけど...」

...沈黙。
僕は目が見えないから、表情なんてわからない。でもこれは、思い出している、というより、知っているけど...という感じな気がする。

「...そ、それがどうかしたの?」

「彼女に会って、話がしたいんです。次の検診日とか、教えてもらえないかと思って...」

僕は素直に言った。というか、言おうとした。最後まではっきり言えなかったのは、僕の声が、その直後聞こえてきた鈴の音に遮られたから。

「...奏?」

それは、紛れもなく君の...ヒナツの声で...

「お母さん...」

え?お母さん?

「ヒナツ...やっぱりあんたが言ってたソウくんって、彼だったのね。」

ヒナツが言ってた...?

「どういうこと...ですか。」

いまいち話がつかめない。
それなのに、なんだか嫌な予感がする。

「奏くん、悪いけどヒナツには今後近づかないでもらいたいの。看護師である私が言うのもなんだけど、やっぱり...」

あぁ、僕の予感は当たったみたい。

「僕が...盲目だから、ですか。」

返事は、ない。
沈黙は肯定だ。
なるほど、そういうことだったんだ。

「あの日、ヒナツが公園に来なかったのは、そういうこと、ですよね。」
別に今更盲目とかどうでもいい。
でも
「僕は本気で、ヒナツのこともっと知りたいと思ってます。病気がわかって以来、初めての友達ですから。でも、僕が病気であることは事実。身を引けろ言うなら引きます。でも、ヒナツの、本気の気持ちはどうなんですか。それを聞かないと、納得はできません。」

「...私はっ!」
「ヒナツ!!」
「....私は、奏と一緒にいたい。私も奏のこともっと知りたい!目が見えるかどうかなんて関係ないよ。私、奏が好き。」

「ヒナツ...。」

「この気持ちだけじゃなんとかならないこともあるかもしれないけど...それでも、私は奏と一緒にいたい。だめ、かな...。」

「...そこまでいうならわかったわ。」

「お母さん!」
「ありがとうございます!」

「すみません、こっちチェックしてもらってもいいですか?」
その時、ヒナツのお母さん...看護師さんが呼ばれた。
「了解、すぐ行くわ。
...じゃ、仕事に戻るから。奏くんよろしくね。」

「はい」
「うん!」

あぁ、緊張した...。
でも良かった。
これで、ヒナツと一緒にいられる。
これで、ソウと一緒にいられる。

「これで、私の隣は奏のもの、だね。
ね、奏の隣は?」
急に感じる恋の味。
「それ、選択肢一つしかないやつでしょ。」
「ふふ」
それはとても甘くて、ほんのりすっぱくて、
「僕の隣は、陽夏のものだよ。」
奏と陽夏だけの、
忘れられない愛の味。
< 12 / 12 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop