君の隣。

奏side

思い返せば、
君と出会ったその日は、
普通とは少し違う、新鮮な日だった。

はぁ。
ため息ばかりが溢れる。

息はまだわずかに白い、と思う。

思う、ってのには、ちゃんと理由がある。

僕がいるのは、今日も今日とて病院だ。
今では、毎日こうして公園のベンチでうたた寝するのが日課になっている。
僕はこの場所が好きだ。
この病院に来たときからずっと変わらない、
僕にとって唯一、季節を感じられる場所。
今日の気温は5℃を下回ると朝のニュースで言っていたから、きっとまだ息が白い。
でも、僕にはそれを確認する手段がない。
だから、思う、だけ。

僕は生まれつき目が悪かった。
それが病気だとわかったのは、小学校に入ってすぐだったかな。毎日毎日僕のぼんやり霞んだ視界が、周りのみんなが走り回る姿を見せてくる。
それからもどんどん見えなくなっていって、今ではもう、視界は皆無。
真っ黒で、真っ白で、
これが視覚の“無”なのかな、と思った。
僕はとうとうふさぎ込んでしまって、いっそ五感すべて、自分をも“無”にしてしまおうかとさえ思った。

そんな自分を変えたのが、この公園だった。
僕が病院に来る時は、決まってここに来る。
初めて入院した日、病室を抜け出して外に出たら道に迷った。で、たどり着いたのがここ。今と同じくらいの時期、満開の桜が、僕の霞んだ視界を薄い桃色に染め上げてくれた。細かい輪郭なんかはわからなかったけど、風に乗ってきた香りが、僕に春を告げてくれた。それがたまらなく嬉しくて、僕はいつのまにか眠っていた。でもまぁすぐに担当の看護師さんに見つかってしまったのだけど。その時僕は、病院を抜け出したと思っていたけど、実はここは病院の敷地内だと後から看護師さんに聞いた。

いつでも来られることがわかってから、僕は毎日決まった時間、ここに来るようになった。