君の隣。

柔らかな肌に整ったパーツ。
「...うん。たしかに可愛いね。
きっと、とても綺麗なんだろうなぁ。」
とても美人であろうヒナツの姿を想像する。
直接見ることはできないけど、夢の中とかでなら会えたりするかな?

「それは、どういう意味?」
心底驚いたような口調。
まぁそうだよね。
勇気を振り絞って、君に伝えようと思う。
僕は、ヒナツに触れていた手を離し、いつもより少し深く息を吸ってから話し出した。
「...ずっと黙っていてごめん。僕の目は、もう何も見えていないんだ 。」
そう。僕は、どんなに美しい景色も、愛しい人も、ありふれた日常さえも見ることができない。

「だから僕は、陽夏といろんなところに行くどころか一人で動くこともできない。ただただ風を感じて、季節を感じて、誰かの話し声や気配を感じて、暗闇の中1人じゃないことを確認する毎日。でも陽夏と出会ってそれは変わったんだよ。毎日に刺激があって、久しぶりに楽しいと思った。」
これは、まぎれもない僕の本音。
でも。
「本当にありがとう。...さようなら。」

その瞬間、君の柔らかな肌が僕に触れる。
僕は、抱きしめられていた。
「それなら...、それなら私がエスコートするよ。私はまだもっと、君の、奏の隣にいたい。奏はどうなのか、正直に教えてほしい。細かい事情なんて見て見ぬ振りをするから気にしなくていい。」
そんな。
本当に言ってる?
こんな僕でいいの?
「...もう一度だけ言うよ?
私と、付き合ってください。」
...っ!

さぁっと暖かい風が流れる。
ほんのり花の...桜の香りがする風。

「...春が来たらしいね。
この世界にも、僕にも。」
この際、しっかり伝えよう。
後悔なんてしないように。
「好きだよ、ヒナツ。
僕、ヒナツのこともっと知りたい。
僕に、君の、ヒナツの隣を頂戴」

なんだか恥ずかしくなって、どこかに隠れてしまいたいような気分。
だけど。

「うん...うん!
私の隣を、君にあげる。」

その瞬間、一瞬...たった一瞬、
君の栗色の瞳が赤らんだ僕をうつし、にこりと笑ったのが見えた。
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